"明治150年"をキーワードに時代の変革期に起きた町や文化の移り変わりを読み解きます
さまざまな商店がページごとに描かれ紹介される本誌は、いわば明治の「商店カタログ」。現在の「ショップ検索サイト」ともいえ、店や商品の情報をチェックするために用いられました。薬、文具、化粧品、油、舶来の輸入品など、新しい暮らしを彩る商品を取り扱う商店が、商人たちの生業の様子や通りを行き交う人々の姿とともに描かれています。当時の複製技術として広まった銅版画が用いられ、明治期の風景や時代感を表す人々の服装などからは、新しい時代と文化が感じられる貴重な資料です。
本展では、その中でも現存する商店として、麹町三丁目に位置する「垣見油化」の変遷について展示します。
画像上:「東京商工博覧絵」より(国立国会図書館デジタル化資料)
画像下:「東京商店案内」より(千代田区教育委員会蔵)
祭衣装にかかせない手ぬぐいは、毎年町会ごとに色や文様もさまざまなデザインのものが作られています。お祭りでは、「くわがた」「喧嘩かぶり」「元気結び」など担ぎ手たちの個性が光る粋な結び方も必見です。山王祭氏子各町の手ぬぐいを一堂に展示した会場で、お祭りのにぎやかな雰囲気をぜひお楽しみください。同時に、各町の弓張提灯や日枝神社をお守りする日枝神社御防講(神社が火事やその他災厄にあった時に、まっさきに駆けつけて消火と神霊を奉護する講社)の見事な長提灯も展示します。
「御仮屋」(おかりや)とは、お祭りの期間にのみ造られ、神輿渡御の際に一時的に休まれる「仮の宮」のこと。昭和期には、何年も使えるよう丈夫な木製の御仮屋を作り、昔ながらの風情と技術を守ってきた地域がありました。本展では、近年ではなかなか見ることができない木造の御仮屋を約10年ぶりに再建します。通常は御仮屋の中に入ることはなかなかできませんが、今回の再建展示では実際に御仮屋の中に入り、細部までご覧頂けます。御仮屋が組み上がる様子を撮影したビデオの上映も致しますので、職人の伝統技術を隅々までご覧ください。
江戸時代の鳶頭たちの装束や纏(まとい)を忠実に描き、めでたい梯子乗りの様子が描かれた作品。本展では、全5枚組のうち山王祭氏子町を担当する5組(ろ組、せ組、万組、百組、や組)が描かれている2枚の作品を展示します。
画像左:江戸時代の「一番組・い組」の半纏
画像右:明治になり「第一消防署 二番組」に改編され半纏のデザインも新たに
江戸から明治における大改革に伴い社会や制度が大きく変化し、消防技術も近代化され、火消しや鳶頭(かしら)が担っていた役割は、消防・警察といった行政組織に移り変わりました。しかし、鳶頭の存在は脈々と受け継がれ、現代においても祭礼行事や伝統を守り続けています。会場では、明治期の行政や地域の区割り改編にともない大きく変化した組ごとに特徴のある「半纏」(はんてん)と現在も鳶頭によって代々受け継がれる「纏」(まとい)のデザインの変遷をご紹介します。時代とともに姿を消す文化や風習がある一方で、時の流れに影響を受けながらも伝統を支え、つなぐ人々がいることに改めて気づかされる内容です。
※本作品は参考画像で、展示作品とは異なります。
江戸時代の古地図をもとに、江戸城を囲む三十六御門全てを描いた大作を展示します。城門だけでなく大名屋敷や当時の町名まで細かく描かれた本作は、眺めるだけでときを渡り江戸の町を歩いているかのような気分に。さらに、現在の皇居周辺の地図や祭の神幸路も重ねることで、江戸〜明治〜現在にかけた日本の中心部の変遷を一目でたどることができ、東京の歴史を学ぶ上で貴重な史料としてもお楽しみ頂ける作品です。
この他、今でも山王祭で御旅所として立ち寄られる日本橋日枝神社周辺の変遷や、現在も麹町五丁目町会で祭礼の際に使われている明治時代の掛け軸も展示されます。
滝口正哉 たきぐち・まさや 成城大学・立正大学 非常勤講師。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。立正大学大学院文学研究科博士課程満期退学。博士(文学)。千代田区立日比谷図書文化館文化財調査指導員を経て現職。専門は近世都市史・文化史。 著書に『千社札にみる江戸の社会』(同成社)、『江戸の社会と御免富─富くじ・寺社・庶民─』(岩田書院)、『江戸の祭礼と寺社文化』(同成社)。
加藤紫識 かとう・しのぶ 和洋女子大学全学教育センター特任教授。國學院大學大学院文学研究科日本文学専攻博士課程後期修了。博士(民俗学)。専門は日本民俗学。千代田区立四番町歴史民俗資料館、日比谷図書文化館(学芸員)、日本女子大学非常勤講師をなどを経て現職。千代田区在勤中の担当展示は、千代田区立日比谷図書文化館 平成27年度 特別展「馬琴と月岑―千代田の"江戸人"―」などがある。